ジェームズウェブ宇宙望遠鏡(JWST)
§.はじめに
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が予想以上の性能だったので、それに気を良くして 次世代宇宙望遠鏡の検討にGO!サインが出ました。2002年には本格的に設計が始まり、その望遠鏡の名前も『ジェームスウェブ宇宙望遠鏡(JWST)』と決まりました。その時の打上げ予定は2007年でした。しかしそれから 計画は遅れに遅れて、実際にJWSTが打ち上げられたのは 昨年(2021年)12月25日でした。JWSTに関しては、星ナビ2022年3月号&4月号に特集が組まれているので、ここでは解説を省略しますが、興味のある方はそちらを参照してください。
§.打ち上げ直後に見えるはず 以下のNASAのサイトで彗星や小惑星の予報位置が計算できますが、探査機の予報も可能です。 https://ssd.jpl.nasa.gov/horizons/app.html#/ 右の図-1は12月22日21h20m 打上げ予定の JWST の予報値を地平座標系でプロットしたものです。観測地は自宅(秦野)で、背景の恒星は 22h20m 時点の位置です。 22h20m ぐらいから南西の低空に見え始め、高度を上げながら飛行して行き23h40mごろに最高点( =28.7°)に達します。その後、高度を下げつつ 02h過ぎまで見えます。 図中に光度を記入してありますが、残念ながら NASA の予報中には光度は ”n.a” となっているので、図中の光度は勝手に JWST の大きさが H-2A ロケットの二段目と同じだと仮定した場合の光度です。高度と光度のバランスから 22h40m前後が撮影の狙い目でしょうか。 |
§.余談ながら…
母の転院手続き等で 12月下旬には松阪の実家に帰省する必要があるのですが、この時期はレナード彗星、H-2A-45号機の夜間打上げ、JWSTの打上げ等 撮影したいイベントが集中しております。特に22日打上げ予定の H-2A-45 は神奈川よりも三重の方が撮影条件が良いので、20日に帰省することにしました。25cm反射を持っていくのは躊躇されたので 106mm屈折を持って行くことにしました。22日の夜は JWST と H-2A-45号機のダブルヘッダーで忙しいことになりそうでしたが、JWST の打上げが 24日に延期され、更にその後 25日に再延期されました。
§.12月25日
打上げ日時が何度も延期されましたが、12月25日 21h20m にギアナ宇宙センターからアリアン5ロケットで打ち上げられました。打上げが延期される度に星図を作り直して待ち構えていたのですが 25日の夜は なんと松阪は時雨混じりのベタ曇りでした。悔しいけど天気には勝てません! JWST がラグランジュ点(L2点)で主鏡やサンシールドの展開を完了したら撮影にトライしよう ‼
§.ちょっと脱線、ラグランジュ点(L2点)とは?
L2点とは下図のように太陽と地球を結んだ直線上で太陽と反対方向に約150万km 離れたところです。この L2点にある天体は もし地球が無ければ公転周期は1年よりも長いはずです。しかし太陽と同じ方向に地球があるので、L2点上の天体には太陽+地球分の引力が働くことになり、あたかも太陽の引力が地球分だけ強くなったかのようになり、公転周期が早くなります。地球から 約150万m 離れた点 (L2点) では公転周期が丁度 地球と同じ1年になります。
母の転院手続き等で 12月下旬には松阪の実家に帰省する必要があるのですが、この時期はレナード彗星、H-2A-45号機の夜間打上げ、JWSTの打上げ等 撮影したいイベントが集中しております。特に22日打上げ予定の H-2A-45 は神奈川よりも三重の方が撮影条件が良いので、20日に帰省することにしました。25cm反射を持っていくのは躊躇されたので 106mm屈折を持って行くことにしました。22日の夜は JWST と H-2A-45号機のダブルヘッダーで忙しいことになりそうでしたが、JWST の打上げが 24日に延期され、更にその後 25日に再延期されました。
§.12月25日
打上げ日時が何度も延期されましたが、12月25日 21h20m にギアナ宇宙センターからアリアン5ロケットで打ち上げられました。打上げが延期される度に星図を作り直して待ち構えていたのですが 25日の夜は なんと松阪は時雨混じりのベタ曇りでした。悔しいけど天気には勝てません! JWST がラグランジュ点(L2点)で主鏡やサンシールドの展開を完了したら撮影にトライしよう ‼
§.ちょっと脱線、ラグランジュ点(L2点)とは?
L2点とは下図のように太陽と地球を結んだ直線上で太陽と反対方向に約150万km 離れたところです。この L2点にある天体は もし地球が無ければ公転周期は1年よりも長いはずです。しかし太陽と同じ方向に地球があるので、L2点上の天体には太陽+地球分の引力が働くことになり、あたかも太陽の引力が地球分だけ強くなったかのようになり、公転周期が早くなります。地球から 約150万m 離れた点 (L2点) では公転周期が丁度 地球と同じ1年になります。
ところで、L2点から地球を見ると地球の視直径は約29’です。これは地球から見た月の視直径(約31’)とほぼ同じです。L2点から見た太陽は視直径約32’なので、L2点では常に太陽は地球による金環食状態だということになります。⇒ これでは JWST には太陽光が少ししか届かず暗くて見えない? いや、大丈夫です。JWST はピッタリとL2点に留まるのではなく、L2点から 25万~83.2万km 離れて
L2点の周りを回るハロー軌道に乗る予定です。これだとJWST から見た太陽と地球の離角(図中のx)は 6~31°ぐらいなので金環日食にはなりません。
もう一点蛇足ながら、図からも分かるように L2点は常に「衝」の位置にあります。だから真夜中に南中するので一年中見えます。冬至の日に南中高度が最大になり、夏至では最小となります。なお、地球から見ると JWST は太陽と反対方向にあるのだから、常に 「ほぼ満月」状態です。
§.2月2日、撮影失敗
JWST は 2022年1月24日に L2点に到着しました。その9日後の 2月2日に撮影を試みました。JWST のサンシールドの大きさが 20m×14m と非常に大きく、且つ満月状態という条件で光度を推定すると15.9~16.3等星ぐらいでした。今までの経験からすると この光度の天体を撮るのはかなり難しいのですが、私の機材では限界ギリギリで撮影可能と思いました。撮影のパラメータは、メトカーフ加算合成をすることを前提に、ISO感度を大きくしてシャッタースピードで背景の暗さを調整するという方針で ISO=32000 SS=0.8" に決めました。そして静止衛星を撮る要領で、恒星時追尾しながら2分間の連写(=91コマ) 及び 追尾を止めて固定撮影で更に2分間の連写(=91コマ)を行いました。追尾、固定のそれぞれの合計の露光時間は 0.8"×91≒73秒 です。結果は、かなり強めの画像処理をしたのですが、残念ながら JWST は写りませんでした。画像に写っている最微星は 14.80等だったので、16等星と思われる JWST に対しては露出不足でした。
§.3月5日、再挑戦
2月の失敗から、16等級のJWSTを写すためには 最低でも5分以上、できれば10分以上の露光時間が必要だと思います。そこで 暗い小惑星を撮影する要領で 10秒露出 & 20分間連写すれば16分ぐらいの露光時間が得られるので、その方法で撮影することにしました。3月5日の夕方は、春一番に成り損ねた強風が吹いていて、自宅前で望遠鏡を設置していると隣の奥さんが 「こんなに強い風で望遠鏡が倒れたりしないのですか?」 と心配してくれましたが、SCW天気予報では 20時前には風は止む予報なので風は気にはなりませんでした。彗星や日本の人工衛星を撮影していると 20時ごろには風は気にならないほどに弱くなりました。そして 20h20m~40m の20分間で JWST の撮影を実施して、3時半ごろに撤収しました。
§.同定作業
得られた10秒露出の 99コマをメトカーフ加算合成して強調処理をすると、17等星まで写っているのが確認できました。JWST の予報位置にも16等星ぐらいの星が写っています。(図-3の黄色矢印)
L2点の周りを回るハロー軌道に乗る予定です。これだとJWST から見た太陽と地球の離角(図中のx)は 6~31°ぐらいなので金環日食にはなりません。
もう一点蛇足ながら、図からも分かるように L2点は常に「衝」の位置にあります。だから真夜中に南中するので一年中見えます。冬至の日に南中高度が最大になり、夏至では最小となります。なお、地球から見ると JWST は太陽と反対方向にあるのだから、常に 「ほぼ満月」状態です。
§.2月2日、撮影失敗
JWST は 2022年1月24日に L2点に到着しました。その9日後の 2月2日に撮影を試みました。JWST のサンシールドの大きさが 20m×14m と非常に大きく、且つ満月状態という条件で光度を推定すると15.9~16.3等星ぐらいでした。今までの経験からすると この光度の天体を撮るのはかなり難しいのですが、私の機材では限界ギリギリで撮影可能と思いました。撮影のパラメータは、メトカーフ加算合成をすることを前提に、ISO感度を大きくしてシャッタースピードで背景の暗さを調整するという方針で ISO=32000 SS=0.8" に決めました。そして静止衛星を撮る要領で、恒星時追尾しながら2分間の連写(=91コマ) 及び 追尾を止めて固定撮影で更に2分間の連写(=91コマ)を行いました。追尾、固定のそれぞれの合計の露光時間は 0.8"×91≒73秒 です。結果は、かなり強めの画像処理をしたのですが、残念ながら JWST は写りませんでした。画像に写っている最微星は 14.80等だったので、16等星と思われる JWST に対しては露出不足でした。
§.3月5日、再挑戦
2月の失敗から、16等級のJWSTを写すためには 最低でも5分以上、できれば10分以上の露光時間が必要だと思います。そこで 暗い小惑星を撮影する要領で 10秒露出 & 20分間連写すれば16分ぐらいの露光時間が得られるので、その方法で撮影することにしました。3月5日の夕方は、春一番に成り損ねた強風が吹いていて、自宅前で望遠鏡を設置していると隣の奥さんが 「こんなに強い風で望遠鏡が倒れたりしないのですか?」 と心配してくれましたが、SCW天気予報では 20時前には風は止む予報なので風は気にはなりませんでした。彗星や日本の人工衛星を撮影していると 20時ごろには風は気にならないほどに弱くなりました。そして 20h20m~40m の20分間で JWST の撮影を実施して、3時半ごろに撤収しました。
§.同定作業
得られた10秒露出の 99コマをメトカーフ加算合成して強調処理をすると、17等星まで写っているのが確認できました。JWST の予報位置にも16等星ぐらいの星が写っています。(図-3の黄色矢印)
でも Stellarium (図-5)では、その位置には星はありません。その代わりにと言うのも変ですが図-4には無い16.95等星(赤字)があります。そしてその16.95等星は図-3中に確かに写っています。この様に Stella Navigater と Stellarium で違いが生じることは頻繁に起こるので、このままでは断定できません。 しかし、図-3をよく見てください。JWST 以外の星は縦方向に長い楕円形になっています。これはメトカーフ加算合成なので JWST の移動量だけ恒星が伸びているのです。これこそ 黄色矢印の像が JWST だという証拠です。念のために元の99コマをメトカーフ加算合成ではなく単純に加算合成しをしてみましたが、当然 恒星は丸い形で 逆にJWST は楕円形をしていたので、間違いはないと思います。 |
でも、これが JWST なのかどうかは確信が持てません。
Stella Navigater 11 でチェックすると、すぐ近くに 15.89等星があるようです。(図-4 赤字) |
§.まとめ
太陽-地球系のラグランジュ点(L2点)に存在する人工物(=JWST)を撮影することができました。撮影時のJWSTまでの距離は 139.5万km で、私にとっては撮影した人工物の最遠記録です。我ながら良く撮れたものだと自画自賛です。少し反省ですが、今回の画像は JWST の移動速度が非常に遅かったので、 20分間では恒星が線状に写るには不足でした。誰が見ても明らかに JWST だと分かるためには 1時間ぐらいの撮影時間が必要でしょう。次回の撮影時には 1時間以上の連写を行いたいと思います。 (3月17日 記)
太陽-地球系のラグランジュ点(L2点)に存在する人工物(=JWST)を撮影することができました。撮影時のJWSTまでの距離は 139.5万km で、私にとっては撮影した人工物の最遠記録です。我ながら良く撮れたものだと自画自賛です。少し反省ですが、今回の画像は JWST の移動速度が非常に遅かったので、 20分間では恒星が線状に写るには不足でした。誰が見ても明らかに JWST だと分かるためには 1時間ぐらいの撮影時間が必要でしょう。次回の撮影時には 1時間以上の連写を行いたいと思います。 (3月17日 記)
2022.03.24 撮影