金星 の 日面経過
§.はじめに
高校生のころに金星の日面経過のことを本で読んだことがあります。明治の初め(1874年)にフランスやメキシコから日本へ観測隊がやって来たことや、次に見られるのは2004年&2012年であることなどが書いてあり、当時としては40年も先のまだまだ遠い未来に思いを馳せ、ワクワク、ドキドキしたものでありました。しかしいざ2004年になってみると、仕事の忙しさに負けて 『天文熱』 は平熱になっており、日面経過の当日は自分が主催する会議の予定が入ってしまっていて休暇も取れない状況でした。日記によると天気は曇りで 『見えなかったであろう』 と諦めが綴ってあります。
そして、いよいよ2012年のラストチャンスが巡って来ました。これを逃すと、水星の日面経過ももう日本からは見ることが出来ないので、代用となる現象すら もうありません。私は先の金環日食よりもこの金星日面経過の方に遥かに大きな期待を寄せていたので、 『金星日面経過を見るために、梅雨が遅い青森までの遠征をしよう。』 と考えていました。
§.遠征先は何処?
10日前の長期天気予報では、やはり秦野は期待できず、仙台付近が有望でした。その後、更に北方の平泉や秋田が登場しましたが、数日前には東北方面は望みが薄くなり、九州の福岡、山陰、北陸、長野、新潟が候補地になりました。新潟か長野に行こうと準備を始めましたが、直前で新潟も長野もダメになり、代わりに浮上して来たのが、なんと愛知~三重北部。 友人から島根への遠征のお誘いがあったのですが、ギックリ腰が完治していなかったので 湾岸長島SA、御在所SA、道の駅「菰野」 のいずれかにしようと決心しました。当日の午前1時過ぎに自宅を出て、
高校生のころに金星の日面経過のことを本で読んだことがあります。明治の初め(1874年)にフランスやメキシコから日本へ観測隊がやって来たことや、次に見られるのは2004年&2012年であることなどが書いてあり、当時としては40年も先のまだまだ遠い未来に思いを馳せ、ワクワク、ドキドキしたものでありました。しかしいざ2004年になってみると、仕事の忙しさに負けて 『天文熱』 は平熱になっており、日面経過の当日は自分が主催する会議の予定が入ってしまっていて休暇も取れない状況でした。日記によると天気は曇りで 『見えなかったであろう』 と諦めが綴ってあります。
そして、いよいよ2012年のラストチャンスが巡って来ました。これを逃すと、水星の日面経過ももう日本からは見ることが出来ないので、代用となる現象すら もうありません。私は先の金環日食よりもこの金星日面経過の方に遥かに大きな期待を寄せていたので、 『金星日面経過を見るために、梅雨が遅い青森までの遠征をしよう。』 と考えていました。
§.遠征先は何処?
10日前の長期天気予報では、やはり秦野は期待できず、仙台付近が有望でした。その後、更に北方の平泉や秋田が登場しましたが、数日前には東北方面は望みが薄くなり、九州の福岡、山陰、北陸、長野、新潟が候補地になりました。新潟か長野に行こうと準備を始めましたが、直前で新潟も長野もダメになり、代わりに浮上して来たのが、なんと愛知~三重北部。 友人から島根への遠征のお誘いがあったのですが、ギックリ腰が完治していなかったので 湾岸長島SA、御在所SA、道の駅「菰野」 のいずれかにしようと決心しました。当日の午前1時過ぎに自宅を出て、
§.撮影計画
さて、何を撮影するか、ということで以下のようなことをしたいと考えました。
① 太陽全体像を15分毎に撮って金星の全経路を比較暗合成で表現したい。
・よく見る手法であり、15分毎だと金星がギリギリ重ならずに並ぶはず。作成してみて煩雑だと感じたら、30分毎
にすればよい。
② 同じく15分毎に拡大撮影を実施する。近くに黒点があったら、黒点を基準にして移動して行く金星を表現する。黒点が
無かったら、太陽縁を基準にする。
③ 第2&第3接触時にムービー機能で拡大撮影して、ブラックドロップ現象が起きないことを示したい。(但し、私の光学
系の精度では無理かも知れない。)
・ブラックドロップ現象は有名な現象だが、近年では光学系の精度が悪いために起こる見かけの現象だと言われている。
④ 潜入時&脱出時に強拡大、露出オーバー気味で撮影して金星大気による散乱光を撮る。
・オレオール現象とか 「金星のツノ」 とか言われているもので、撮影できたら うれしいが、これはシーイングが良く
ないと無理かも知れない。
①と②では、直焦点撮影とアイピースによる拡大撮影になるので、15分毎にカメラの着脱操作が必要になります。そのために毎回カメラの向きを合わせる時間的な余裕はないと思われます。もしも強引に合わせたとしても、極軸のセッティングが昼間の操作なので極軸合わせの精度が非常に悪いはずであり、カメラの向きを合わせる価値はありません。ということで画像合成時の手間が大変ですが、カメラの位置合わせは行いません。(目視概略合わせのみ)
§.実際の撮影
第1接触の1時間前には現場に到着していましたが、北東~北にこそ青空が見えていますが、肝心の東~南方向は雲がありこの時点での雲量は8/10、太陽の位置も分かりません。今更、別の場所を探す余裕もないので、腰を気遣いながら望遠鏡の準備をノロノロと始めました。持ってきた「おにぎり」2個を朝飯代わりに食べて、全ての準備が完了したのは7時前でした。その時点で、太陽付近の空は随分と明るくなって来ましたが、やはり太陽は見えません。北側に見えている青空も、雲の移動がすごく遅いのであまり広がって来ません。
日面経過開始の時刻になっても太陽は見えず、何も出来ないまま第2接触時刻 (7:28:35) も過ぎました。ところがそのころから南方にぽっかりと出来ていた青空が急速に広がって来て、どんどんと太陽の方へ迫って来ました。そして7時40分には、ついに日差しが現れました。慌てて太陽を導入してピントを合わせ、初シャッターを切ったのが 7時48分35秒でした。天候は雲量6/10 程度にまで回復していました。当初の計画では、拡大撮影用のアイピースはK20 mm を考えていました。普段はそれほど時間に追われていないので気が付きませんでしたが、実際に時間に追われながら使ってみるとピント合わせに随分と時間がかかることが分かりました。そこで急遽、アイピースは NLV30mm に変更しました。
8時20分ごろには ほぼ快晴となり、第1/第2接触はダメだったものの、こちらへ遠征して来て本当に良かったと思いました。天気が回復すると、風が段々と強くなって来てピント合わせに苦労しました。また風上200mぐらい先に大きな工事現場があり、ダンプカーが通るたびに舞い上がる土埃には閉口しました。風は、金星が最も深く侵入する10時30分ごろがピークで望遠鏡がぶれて撮影できないほどでしたが、徐々に収まって行き、12時前にはあまり気にならなくなりました。空腹になって来ましたが、昼食を買う機会がなかったので、今日は昼抜きです。世紀の大イベントも快晴のうちに無事に終了して、14時10分に撤収しました。片付けながら空を見ると高層雲が広がり始めていて、雲量は 4/10 ぐらいになって来ていました。
§.連続写真
15分毎に合成してみましたが、やはり煩雑なので30分毎の合成にしました。テレビや新聞でも通過経路の合成写真を紹介していましたが、いずれも 『天頂基準』 の合成でした。だから経路が逆U字のような写真で、近所の人からも 『どうして金星はまっすぐに横切らないのか?』 と質問されました。かなり多くの人が誤解をしたのではないでしょうか? マスコミの罪ですね。北基準で合成しましたが、黒点も自転に伴い移動していくので、そのままでは見苦しくなります。そこで、黒点だけは中央(10:30)のものを採用したかったのですが、その時刻は強風のためピントが甘いものしかなく、やむを得ず 11:30 の黒点を残し、他の時刻のものは消しました。
§.ブラックドロップ現象
第2、第3接触時にムービー機能で拡大撮影してブラックドロップが起こらないことをしめす計画でしたが、第2接触が雲で見えなかったので、第3接触のみ撮影することが出来ました。そのムービーから静止画を切り出して並べたのが下の写真ですが、シンチレーションが悪かったのでブラックドロップ現象の有無は明確には分かりませんでした。しかし以前に本で見たような極端なブラックドロップは見られないので、私としては 『ブラックドロップ現象は無い』 という結論にしたいと思っています。
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データ : SE250N , NLV30mm , f = 3970mm , F = 15.9 , バーダーアストロ ソーラーフィルム , EOSKissX3 , ISO400
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§.オレオール現象
金星大気による散乱光を狙って露出オーバー気味で拡大撮影したものです。この時の適正露出は 1/1250 付近なので、1/50 はかなりオーバーです。PhotoShop で トーンカーブを補正しています。散乱光らしきものが写っているように見えます。非常に淡いので見落としそうですが、
他の数コマにも写っているので間違いないと思います。なお更に露出を掛けたコマでは太陽の光芒に紛れてしまって確認出来ません。また少し露出を控えたコマでは、散乱光としては露出不足で、やはり確認できません。
§.最後に 世紀の大イベントを好天下で撮影・観望できて非常に満足しております。また当初の計画がほぼ実施できて、拙いながらも自分としては満足のいく結果(写真)が得られたと思っています。完治していないギックリ腰を無理して遠征して本当によかったです。 (記 2012.06.12) |