小惑星探査機サイキの打ち上げ
§.はじめに ※文中の時刻はすべてJSTです。
2023/10/13 23h19m43s にアメリカの小惑星探査機サイキ(Psyche)が打ち上げられました。目指す小惑星はプシケ(Psyche)です。
当初の打ち上げ予定は 最も効率が良い2022年6月となっていましたが、その後 同8月2日、同9月20日と順延され、打上げタイミングを失したために更に1年延期されました。そして2023年10月5日→12日と順延されながら、やっと13日に打ち上げられた次第です。でもこの10月時点での延期は私にとっては幸いでした。なぜなら12日は雨が降りそうな曇天でしたが、13日は雲一つない快晴の夜になり 打上げ直後のサイキを撮影することが出来ました。しかも思いがけず 打ち上げロケットのファルコンの「スペースX スパイラル」まで撮れました。
§.13日のサイキの予報経路
いつものように NASAの "Horizons" で予報位置を計算して下図を作成しました。サイキは打上げから約1時間後ぐらいから見え始め、どんどん高度を上げて行きリゲルの直ぐ下を通過して更にベテルギウスの近くに達します。(注)図-1は地平座標表示なのでリゲルの上を通過するように見えますが、実際はリゲルのすぐ下を通過します。
2023/10/13 23h19m43s にアメリカの小惑星探査機サイキ(Psyche)が打ち上げられました。目指す小惑星はプシケ(Psyche)です。
当初の打ち上げ予定は 最も効率が良い2022年6月となっていましたが、その後 同8月2日、同9月20日と順延され、打上げタイミングを失したために更に1年延期されました。そして2023年10月5日→12日と順延されながら、やっと13日に打ち上げられた次第です。でもこの10月時点での延期は私にとっては幸いでした。なぜなら12日は雨が降りそうな曇天でしたが、13日は雲一つない快晴の夜になり 打上げ直後のサイキを撮影することが出来ました。しかも思いがけず 打ち上げロケットのファルコンの「スペースX スパイラル」まで撮れました。
§.13日のサイキの予報経路
いつものように NASAの "Horizons" で予報位置を計算して下図を作成しました。サイキは打上げから約1時間後ぐらいから見え始め、どんどん高度を上げて行きリゲルの直ぐ下を通過して更にベテルギウスの近くに達します。(注)図-1は地平座標表示なのでリゲルの上を通過するように見えますが、実際はリゲルのすぐ下を通過します。
§.撮影計画 & 実際の撮影
撮影は α7SⅢ+25cm反射(f=1200mm)で動画撮影と EOS-RP+f200mm望遠レンズで固定静止画撮影の2本立てで行うことにしました。25cm反射は自宅の前に設置し、200mm望遠レンズは地上風景が入らないように自宅から20メートルほど離れた所に設置しました。
撮影手順
① まず00h32mの位置(図-1 緑四角)を望遠鏡に導入して。そのまま待機。
② 00h26m過ぎの位置(図-1 黄色四角)をEOS-RPで 28m30sまで撮影して、撮影後リゲルを写野の左上に導入して待機。
急いで導入して待機。20メートル先のEOS-RPまでダッシュして連写開始。そのまま放置。
③ 32mから動画撮影スタート。サイキが写野外に出たら動画をストップして、リゲルを導入して待機。
20メートル先のEOS-RPまでダッシュして連写開始。そのまま放置。
④ リゲルの位置を微調整して撮影開始。
実際の撮影はほぼ計画通りに進みました。③の時点で動画を撮影中、サイキがカメラのモニターをスーッと横切りました。予想以上に明るい点像だったので少し驚くと同時に「これで確実に写った」とホッとしました。(下の画像-2)
ところが、④の時点で撮影を開始して、もうすぐサイキが写野内に入って来るという時に「何だ、これは?」と思わず叫びたくなるような物が入って来ました。グルグルととぐろを巻いた渦巻が ほぼモニター一杯に写っています。思考停止してしまって「棒渦巻型の銀河みたいだなぁ」とか「棒の部分も回転している」とかボーっと見ている間に 渦巻は写野から出て行きました。我に返って、コントローラの微動を操作して渦巻を追跡しました。渦巻はだいぶ小さくなって半分ぐらいの大きさで進んでいましたが、また噴射したのか棒の先から噴煙が出て渦を巻き始めました。その内、隣家の屋根が迫って来て、ついに屋根に隠れてしまいました。こんな事態になるとは思っていなかったので、リゲル付近を撮って終了のつもりでしたから、手抜きで望遠鏡を自宅前に設置していました。分かっていたら屋根が邪魔にならないように望遠鏡も20メートル先に設置したのに残念。
撮影は α7SⅢ+25cm反射(f=1200mm)で動画撮影と EOS-RP+f200mm望遠レンズで固定静止画撮影の2本立てで行うことにしました。25cm反射は自宅の前に設置し、200mm望遠レンズは地上風景が入らないように自宅から20メートルほど離れた所に設置しました。
撮影手順
① まず00h32mの位置(図-1 緑四角)を望遠鏡に導入して。そのまま待機。
② 00h26m過ぎの位置(図-1 黄色四角)をEOS-RPで 28m30sまで撮影して、撮影後リゲルを写野の左上に導入して待機。
急いで導入して待機。20メートル先のEOS-RPまでダッシュして連写開始。そのまま放置。
③ 32mから動画撮影スタート。サイキが写野外に出たら動画をストップして、リゲルを導入して待機。
20メートル先のEOS-RPまでダッシュして連写開始。そのまま放置。
④ リゲルの位置を微調整して撮影開始。
実際の撮影はほぼ計画通りに進みました。③の時点で動画を撮影中、サイキがカメラのモニターをスーッと横切りました。予想以上に明るい点像だったので少し驚くと同時に「これで確実に写った」とホッとしました。(下の画像-2)
ところが、④の時点で撮影を開始して、もうすぐサイキが写野内に入って来るという時に「何だ、これは?」と思わず叫びたくなるような物が入って来ました。グルグルととぐろを巻いた渦巻が ほぼモニター一杯に写っています。思考停止してしまって「棒渦巻型の銀河みたいだなぁ」とか「棒の部分も回転している」とかボーっと見ている間に 渦巻は写野から出て行きました。我に返って、コントローラの微動を操作して渦巻を追跡しました。渦巻はだいぶ小さくなって半分ぐらいの大きさで進んでいましたが、また噴射したのか棒の先から噴煙が出て渦を巻き始めました。その内、隣家の屋根が迫って来て、ついに屋根に隠れてしまいました。こんな事態になるとは思っていなかったので、リゲル付近を撮って終了のつもりでしたから、手抜きで望遠鏡を自宅前に設置していました。分かっていたら屋根が邪魔にならないように望遠鏡も20メートル先に設置したのに残念。
§.ちょっと脱線
探査機サイキの名称についてですが、日本では探査機は英語読みで「サイキ」、目的の小惑星はラテン読みで「プシケ」なのでまだ
よいのですが、NASAでは区別がつかないとの内輪もめがあったみたいです。以下のような状況の時に分かりにくいですよね。
サイキは間もなくサイキをレーダーで確認できる距離に達します。その後サイキは速度を緩めてサイキに接近しサイキを周回しながらサイキのカメラで……とか サイキとの通信は確立していますが、サイキがサイキの後ろに回り込むタイミングで…とか、混乱しそうですね。 なんでこの名前にしたのかなぁ。
探査機サイキの名称についてですが、日本では探査機は英語読みで「サイキ」、目的の小惑星はラテン読みで「プシケ」なのでまだ
よいのですが、NASAでは区別がつかないとの内輪もめがあったみたいです。以下のような状況の時に分かりにくいですよね。
サイキは間もなくサイキをレーダーで確認できる距離に達します。その後サイキは速度を緩めてサイキに接近しサイキを周回しながらサイキのカメラで……とか サイキとの通信は確立していますが、サイキがサイキの後ろに回り込むタイミングで…とか、混乱しそうですね。 なんでこの名前にしたのかなぁ。
§.サイキの分離タイミング
ところで 私は今回の撮影では あわよくばサイキ本体とロケット最終段が並んで飛行して行く姿が撮れるのではないかと期待していたのですが、打上げ後に入手した情報では サイキとロケットの分離は 00h21m53s でした。つまり画像-2は分離から 10m17s後の姿だということです。残念ながら分離時の相対速度は分からないのですが、仮に大きく見積もって 1 m/sec としたら、画像-2の時点では サイキ本体とロケットの距離は617メートルです。7824km離れた地上からみると約16秒角以下なので、分離して見るのはちょっと無理そうですね。
ところで 私は今回の撮影では あわよくばサイキ本体とロケット最終段が並んで飛行して行く姿が撮れるのではないかと期待していたのですが、打上げ後に入手した情報では サイキとロケットの分離は 00h21m53s でした。つまり画像-2は分離から 10m17s後の姿だということです。残念ながら分離時の相対速度は分からないのですが、仮に大きく見積もって 1 m/sec としたら、画像-2の時点では サイキ本体とロケットの距離は617メートルです。7824km離れた地上からみると約16秒角以下なので、分離して見るのはちょっと無理そうですね。
§.スペースX スパイラル
打上げシーケンスの詳細は分かりませんが、サイキを分離して10分以上経過したのでロケットの爆発防止のために余った燃料の放出を開始したのではないかと思います。それが拡散しながら太陽光を反射して渦巻状に見えていたのでしょう。まさか自分が目撃するとは思ってもいませんでしたが、これが最近 時々話題になっているスペースXスパイラルだと思います。 余談ながら、ロケットが余った燃料を放出するのを撮影したのは 実はこれが2回目です。1回目は 2016年2月17日 に打ち上げられた H-2A-30号機 が打上げの1周後に放出した時のことで、この時も驚きました。(右の画像-3) 詳しくは こちらに書いているので参照してください。 |
§.今までの探査機
下表は私が予報位置を知り得た探査機の一覧表です。私が撮影を始めた2011年以降のもので、ロシア・中国等の予報不可のものは除いてあります。
下表は私が予報位置を知り得た探査機の一覧表です。私が撮影を始めた2011年以降のもので、ロシア・中国等の予報不可のものは除いてあります。
※ ◎:秦野市から見える。 △:見えるけど悪条件(ほぼ無理) ×:昼間の通過、地球影の中を通過etc
探査機名 | 打上日 | 時刻 | 探査対象 | ※ | 打上後 最初の夜の天気 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
ジュノー | 2011.08.06 | 01:25 | 木星 | ◎ | 雨/翌日も曇り | |
マンガルヤーン | 2013.11.05 | 18:08 | 火星(インド) | × | ? | 日本からは見えず |
メイブン(MAVEN) | 2013.11.19 | 05:28 | 火星(米) | × | 雨→曇り | 日本からは見えず |
はやぶさ2 | 2014.12.03 | 05:28 | 小惑星リュウグウ | △ | 晴 | H9.6°14等級予報(諦め) |
オシリス・レックス | 2016.09.09 | 08:05 | 小惑星ベンヌ | × | 晴 | 日本からは見えず |
ベピコロンボ(みお) | 2018.10.20 | 10:45 | 水星 | × | 雨 | 日本からは見えず |
チャンドラヤーン2号 | 2019.07.22 | 月着陸(失敗) | ◎ | 撮影できた | ||
ホープ(アルアマル) | 2020.07.20 | 06:58 | 火星(UAE) | ◎ | 曇り | |
マーズ2020 | 2020.07.30 | 20:50 | 火星(米) | ◎ | 晴~曇り | 雲の為見えず |
ルーシー | 2021.10.16 | 18:34 | トロヤ軍小惑星 | ◎ | 雨 | |
ダート | 2021.11.24 | 15:20 | 小惑星衝突実験 | × | 晴 | 日本からは見えず |
ジェームス・ウェブ | 2021.12.25 | 21:20 | 宇宙望遠鏡 | ◎ | 曇り | |
アルテミスⅠ | 2022.11.16 | 15:47 | 月周回・帰還実験 | ◎ | 晴 | 打上げが43分遅れた為に位置不明 |
ジュース | 2023.04.14 | 21:14 | ガリレオ衛星 | ◎ | 曇り | |
チャンドラヤーン3号 | 2023.07.14 | 18:05 | 月着陸 | ◎ | 曇り | |
*XXXXXXXXXXXX | *XX | *XX3 | *XXXXXXXXXX4 | *XX | *X | *XX |
2011年以降 15機の探査機の打ち上げタイミングでの撮影を試みましたが、撮影できたのはチャンドラヤーン2号1機のみでした。(表中の赤字は撮影できなかった理由)
今回のサイキは2機目の撮影成功例ですが、この表を作ってみて改めて撮影チャンスが少ないことに驚きました。15機中、半分の7機が悪天候で撮影できなかったことも驚きです。自分はどちらかと言うと晴男だと思っていたけど、実は雨男だったのか? ともあれ、ジュノー、はやぶさ2、オシリス・レックス、ベピコロンボ、ジェームス・ウェブ、アルテミスⅠの6機は別の機会に撮影しているので良しとしておきましょう。
§.最後に
偶然とは言え ”渦巻” が撮影できて嬉しいのですが、実はこの渦巻を肉眼では見ていないのです。リゲルより明るかったので絶対に肉眼で見えたはずなのですが、カメラのモニターを見詰めながら追跡するのに必死でした。肉眼で見なかったことが残念です。
買わない宝くじは当たらないのと同じなので、今後も探査機の撮影チャンスには狙って行きたいと思います。
(2023.11.02 記)
今回のサイキは2機目の撮影成功例ですが、この表を作ってみて改めて撮影チャンスが少ないことに驚きました。15機中、半分の7機が悪天候で撮影できなかったことも驚きです。自分はどちらかと言うと晴男だと思っていたけど、実は雨男だったのか? ともあれ、ジュノー、はやぶさ2、オシリス・レックス、ベピコロンボ、ジェームス・ウェブ、アルテミスⅠの6機は別の機会に撮影しているので良しとしておきましょう。
§.最後に
偶然とは言え ”渦巻” が撮影できて嬉しいのですが、実はこの渦巻を肉眼では見ていないのです。リゲルより明るかったので絶対に肉眼で見えたはずなのですが、カメラのモニターを見詰めながら追跡するのに必死でした。肉眼で見なかったことが残念です。
買わない宝くじは当たらないのと同じなので、今後も探査機の撮影チャンスには狙って行きたいと思います。
(2023.11.02 記)